追懐の情

澄慶が洗い物をしている間に学友はずっと考えていた。澄慶は何かを隠してる。
澄慶の謎ってなんだろう。一緒に居れば分かるって言ってたけど。
学友は何気なく窓の外に目をやった。下に車から黒服の男が何人か降りてくるのが見えた。学友は嫌な予感がして、窓からすぐ離れた。
「おいっ、奴らが来た!」
「ええ!?どうしてここが分かったんだろう?」
「何でもいいけどお前、逃げた方がいい」
学友は澄慶の腕を掴むと、そのまま玄関へ向かった。
「左手の奥に非常階段がある。住民らのゴミ溜めになってるからほとんどあまり使われていない。そこから逃げろ」
「でも、学友は?」
「俺は大丈夫だ。早く」
学友が周りの様子を見ながらドアを開けると、エレベーターがちょうど上昇を始めたところだった。澄慶が慌てて階段へ向かおうとして、学友の顔を見た。
「学友、何があっても俺より自分の事を優先してくれ。そして、何を言われても、驚かないで」
澄慶は学友に抱きつくと、最後に言った。
「俺はずっとあんたの事を忘れた事はなかった」
澄慶は学友の返事を聞かずにそのまま全速力で走って、階段を降りて行った。
学友はドアを閉めて、澄慶の言葉を考えていた。
物思いに耽る暇もなくすぐに玄関のチャイムが鳴った。学友が暫く黙っていると、
「ここを開けろ!!」
と乱暴にドアを蹴り出した。ドアを開けると、鉄柵ごしに黒服の男2人が立っていた。
「何ですか?」
学友が聞くと台湾なまりの広東語が聞こえてきた。
「しらばっくれるな!C.Cを出せ!!」
「C.Cって?」
「とにかくここを開けろ!」
一人の男が学友に銃を向けた。学友は仕方なく鉄扉も開けた。男達はそのまま中へなだれ込んできた。勝手にあちこち走り回り探した。
「ここには俺の他、誰もいないよ」
「お前と一緒に逃げただろう!」
「人違いだ。あいつはC.Cなんて言う名前じゃないし」
「澄清だ。俺達の間では頭文字のアルファベットを取って、C.Cと呼んでいる」
「チョンチン・・・!?」
男は胸元から写真を取り出した。その上に名前が書いてある。
庚澄清、と。
「澄清・・・」
学友は差し出された写真に見入った。そこには見覚えのあるような女性が写っていた。

誰だ?ひどく懐かしい感じがする。

「庚澄慶(ユィ・チョンチン)という偽名を使ってたようだ。字が違うだけで発音は紛らわしいがな。お前も本当の事は知らないようだな」

学友は自分の頭を手で押さえて、ゆっくりと考えてみた。
庚澄慶(ユー・チュンヘン)だろう?・・・ああ、これは広東語か。

学友の目から涙が零れた。急に昔の事が思い出された。まさか、という思いと激しい驚きのせいで身体が震えた。あの懐かしい味、水餃子。あの子の母親の味。
幼い頃良く遊んだあの女の子、阿清、・・・澄清・・・・・・澄慶。


「阿清〜、遊ぼ〜〜!」
学友がいつものように澄清の家のドアを叩いた。すぐに中から澄清の母が出て来ると、澄清に、「ほら、ちゃんといいなさい」と背中を押した。もじもじしながらも澄清は言った。
「友友、ごめんね。あたち、明日お引越しするの」
「お引越しって?」
「遠くに行っちゃうの。だから、友友とバイバイしなきゃ」
「やだよ、そんなのやだ」
学友の目に大粒の涙が光った。どんどん零れ落ちて、うわ〜〜んと大声で泣き出した。
つられて、澄清の目にも涙が滲んだ。
「泣いちゃダメ。すぐに戻ってくるから!あたち、友友のお嫁さんになるんだからね!」

そうして、2人して大声で泣いてると、澄清の母がカメラを持ってきた。
「ほら、記念に写真撮っておきましょう。友友も阿清も涙を拭いて」
ベソをかいたまま写った2人の写真を、翌朝澄清の母が学友の家まで持ってきた。


学友は今の今までこの写真を大事に飾って持っていた。

「来い!お前を使っておびき出してやる!」
放心状態のまま学友は男達に捕らえられた。

気がつくと小汚いアパートの一室に放り込まれて、柱に縄でぐるぐるに巻きつけられて身動きが取れなくなっていた。学友はほとんど抵抗しなかった。何の恐怖も感じなかった。頭の中は澄慶の事でいっぱいだった。埃の積もった部屋で足だけ自由だったので、伸ばしたり曲げたりした。その度に埃が舞って視界をぼんやりと包んだ。

(俺はずっとあんたの事を忘れた事はなかった)

澄慶の言葉を何度も反芻しながら、澄清と澄慶の繋がりを考えた。分からない事はまだあった。

学友が考えに耽っていると、ドアが開けられ、先程の男2人の他に別の男が現れた。男は学友をしばらく眺め回していた。
こいつ、どっかで見たような・・・。
学友は記憶を辿ろうとしていると向こうの方から口を開いた。
「ああ!思い出した。どっかで会った事あるような気がするな〜と思ったら、 C.Cと最初にこっちに来た時だったよ」
学友は澄慶と初めて会った珈琲室の時の事を思い出した。澄慶の横にいた男。
学友の考えを察したかのように男は名刺を取り出して見せた。林森仁、とある。
「覚えてるかな?私はC.Cの右腕みたいなものだよ。正確にはだった、というべきかな」
そう言うと森仁は高笑いをした。
「一体何が望みだ、澄慶をどうして・・・」
「彼女を連れ戻せとのボスからの御達しだ」
「・・・彼女?」
学友が聞き返すと森仁は更に笑った。
「いや、今はとても女にゃ見えないよな?あれでもすごい美人だったんだぜ。それをあのバカが、性転換をして、台湾から逃げたんだ」
澄慶と澄清が重なった。今までの謎めいた行動の全てが明らかになって、フラッシュバックのように映像が頭に浮かんだ。



つづく。
かなり、間が空いてしまいました〜。この話の存在ってもう忘れられてる?(涙)
でも、何だかんだといいつつ、そろそろ終盤に近づいて参りました。
そして、今回で謎は解けましたね〜♪
想像通りでしょうか?(笑)
さて、ラストに向けて話をまとめるんだぞ〜、JOA!

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