熱情の迷路

「ところで、弟君はどうだったんだ?」
学友が聞くと、彩袋はにっこりと笑った。
「ええ、家にいる時より随分気が楽みたいですよ。もし発作が出ても、すぐにお薬投与してもらえるし、私としてもその方が安心出来るんです」
「そうか、良かった」

澄慶が点心を作っていると、誰かがやって来た。店に2人組が入ってくると澄慶は劉叔と林叔だと思い、「いらっしゃい〜!!」と声だけで、応対した。
しばらくして、点心が蒸し上がり、それを蒸篭に詰めて、トレイに載せると、やっと厨房から出て来た。
「ごめんね〜。今日は待たせちゃって。お詫びに、この点心は俺からのおごり!」
「ほう、うまそうな匂いだな」
いつもと違う声に高く積み上げられた蒸篭の向こうから、澄慶が顔を覗かせた。見覚えのある顔が2つ並んでいた。
「ここの主人はあんた一人か?」
澄慶は再び顔を引っ込めた。両足が、がくがくと震えだした。
「そうだが?何だ、あんたら」
いつもよりドスの利いた声で、震えをごまかすように澄慶は言った。男2人組みは蒸篭を手で払い、澄慶の顔を見た。床に派手に蒸篭が転がって、点心が飛び出して潰れた。蒸気が一斉に上がった。
「何すんだよっお前!!」
殴りかかろうとする手を一人の男が掴んで止めた。もう一人が胸元の財布から1000ドル札の束を澄慶の頬に打ちつけた。
「これだけありゃ、文句ねえだろ?」
そう言うと、札束を床に撒いた。澄慶は男の顔を睨んだ。
「おい、こいつ・・・もしかして・・・」
手を掴んでいる男がもう一人の男に何やら小声で話した。その隙をついて澄慶は手を振り払い、男の腹に一撃を食らわすと、走って逃げた。店を出るとちょうど学友がスチール缶を外へ出そうとしていた。学友は澄慶に気づき、「どうしたんだ?」と同じ様に追いかけてきた。
「学友、来るな!俺追われてるんだ」
「何だ?どうしたんだよ、一体!?」
後ろからさっきの男2人組が走って来る。
「おい、お前、待て!!お前、C・Cだろ!?」
「人違いだっ!!」
澄慶は声を張り上げ、裏道に逸れた。学友も一緒について来た。
「学友、店戻れよっっ!!」
「ここまで来てもう戻れね〜よ、奴らにだって面割れたしよ!」
「勝手にしろ!だけど、あいつらプロだから、どこまでも追って来るぜ!」
「何やったんだ?お前!」
澄慶はそれには答えなかった。全速力で裏道を駆け抜ける。通り掛かりの人何人にもぶつかった。
古い建物の細い階段を上がり、それに気づくと、学友は澄慶の顔を自分の胸座に押しつけ、息を吸って入った。フロントにいる男に言って鍵を貰い、すぐ中に案内してもらった。
学友が念の為、後ろを振り返ってみたが、追手の気配はなかった。
鍵をかけ、ピンクの壁紙、赤いベッド、何だか異様な雰囲気に澄慶は圧倒されていた。
「何ここ、学友」
「取りあえず、奴らをまく事に成功したみたいだな。ああ、ここね、ラブホテルみたいだな」
澄慶は顔を真っ赤にして、くそっと吐き捨てた。
「しょうがないだろ。男2人でここに来るとは思わないだろうし」
学友が弁解するように言った。しかし澄慶はそんな事を気にしてる訳では無さそうだった。ベッドに腰掛けて、頭を抱えた。
「なあ、なんで追われてる?話してくれないか?」
学友が澄慶の前にしゃがんで、顔を覗き込んだ。
「学友には関係ない!!口出さないでくれっ!」
澄慶がきつく言い放つと、学友は黙って立ち上がった。澄慶はハッとして、今度は穏やかに言った。
「・・・あ、ごめん・・・俺ちょっとパニック起こしかけててさ・・・あの落ち着いたら、またゆっくり順を追って話すつもりだから。それまで、待ってくれる?」
学友は振り返ると笑った。
「ううん、いいんだよ。何か大変な事が起こってるのだけは俺にも分かるから。ただ、力になりたかったんだ」
「うん、ありがとう」
学友は店に電話をかけ事情を話し、彩袋に後の事を頼んだ。澄慶の店の事も鍵の在処を言って閉めてもらった。
「おじいさん2人が寂しそうにしてたから、私が澄慶さんの代わりにお茶を入れました。あ、店は閉めて、ですけどね」
澄慶が受話器を学友から奪って何度も頭を下げた。
「本当に、阿袋、ごめん」
それしか、言えなかった。

真中に置かれたベッドはセミWくらいの小さなお粗末な代物だった。テレビは壊れて映らないし、右端に机と椅子がおざなりに置かれていた。どれもかも古くて汚く、ピンクの壁紙だけが最近張り替えたのか、やけに明るく、しかしどこかしら歪んだ空間だった。天井のファンも壊れて動かない。窓も小さく、何年も洗ってない様な分厚い赤いカーテンが垂れ下がっていた。
澄慶はベッドに寝転がって動かない天井扇を見ながら、何かを考えている様だった。学友はがたがたと安定しない椅子に逆向きに座り、背もたれに両腕をのせ、そこで頬杖をついていた。
壁が薄いのだろう、しばらくすると、隣から女の喘ぎ声が聞こえ出した。あん、ああん、とまるで同じ部屋にいる様に響いた。思わず学友が澄慶の顔を見ると、澄慶も同じ様にこっちを見た。笑いたいのだが笑えない。深刻な空気の中に女の声がどこまでも割って入った。学友も澄慶も何も言わずお互いを見ていた。澄慶は女の喘ぎ声より、気にかかる事がいっぱいという感じで、学友は学友でそんな澄慶が心配だった。
あああん、もっと奥まで突いて〜と、女の声が更に大きくなる。澄慶の目が潤んでいるように見えた。息が詰まりそうな中、堪らず学友が口を開いた。
「澄慶、ごめんな。こんなとこ連れてきて」
澄慶は黙って向こう側を向いた。肩が震えてるのが分かる。
・・・泣いてるのか?
学友は心配だったが近づかず、そっと様子を伺った。息を殺して泣いてる様だった。
なんで、泣いてるのだろう。昨日俺が押し倒した事思い出して、怖くなってたらどうしよう。それとも今日追いかけて来た奴らの事だろうか?
学友が色々と考えてる内、澄慶は何時の間にかこっちを向いていた。どうやら目に涙はもう無かった。学友はわざとそれに触れず、明るく振舞った。
「ど〜したんだよ、お前らしくもない!急に静かになっちゃって。隣のオネエちゃんの声聞いて、欲情したのか?それに、どうした、ここへ来てから、1本もタバコ吸ってないじゃないか」
澄慶は笑顔になった。学友はほっと胸をなで下ろした。
「タバコはもう止める」
「何?どうしたの?どういう心境の変化?」
「なあ、だからキスしてもいい?」
学友は自分の耳を疑った。澄慶は平然とした顔で言ったからだ。
「え!?」
澄慶は手で近くに来る様に合図した。学友は半信半疑ながら澄慶に近づいた。
「澄慶、なんて言った?お前・・・」
澄慶は学友の顔を両手で挟むと自分の方へ引き寄せて唇を合わせた。学友は驚きながらも、慌てて離れた。
「お前、こういうのイヤじゃなかったのか?」
口から心臓が飛び出しそうになりながらも学友は理性をふり絞って言った。澄慶は哀しそうな顔をして学友の質問には答えず、言った。
「入れて」
「え!?」
「学友の舌をちょうだい」
学友が澄慶の言葉を理解するより早く、澄慶が再び学友の口を塞いだ。そしてゆっくりと吸った。学友は言われた通り澄慶の口の中に舌を差し入れた。澄慶は今度は強く学友の舌を吸う。学友は痺れるような快感に酔っていた。
学友が澄慶に口づけたまま、ベッドに押し倒した。目を開けると、澄慶もこっちを見ていた。不思議な事にタブーを冒してる気が全然しなかった。澄慶の目を見ていると安心できた。澄慶が学友の股間に手を伸ばす。澄慶の手が触れた時、学友は大きく息を吐いた。
「本当に学友が好きだよ。でも、セックスは出来ない。残念だけど」
「それって何、俺達が男同士だから?」
澄慶は意味深な笑顔を浮かべた後、学友のジーンズのベルトに手をかけた。
「ねえ、学友だけいかせてあげようか?」
澄慶がゆっくりジーンズのジッパーを下ろした。
「・・・俺は澄慶が男だろうが、宇宙人だろうが、好きだよ。冗談じゃなく」
そう言うと、澄慶の耳元に息を吐いた。



つづく。
ははは、この後JOAはどう繋いでくれるかな?(笑)
結局自分が書きたくて、全て振るのはやめておきました。
でも別にサービスシーンと言う訳じゃなく、全て伏線張ってあります〜。
ああ、もう爽やかでいられないか。(笑)
是非、感想宜しくです!!

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